ゆでガエルはゆだりながら日記

ゆだりきったら左様なら。

大学受験・志望理由書の「書かせ方」・準備編

こんにちは。

 

東京では桜が七分咲きくらいになってきて,なかなかいい感じです。

とはいえ春は別れの季節でもあって,昨日も隣席の人から「お世話になりました。今日が最後の出勤です」との挨拶があって,なんだか複雑な気分です。

 

さて,以前大学受験に向けての推薦文の書き方について個人的な考えを載せましたが,今回は,また今年も始まっていくAO・公募制推薦入試(面倒なので,以降単に「AO入試」とだけします)で子どもたちが提出する志望理由書の書かせ方について書いてみたいと思います。

※当初は志望理由書だけを想定していましたが,自己推薦書にも通じる部分があろうかと思います。 

 

なお,私は国語の先生でも論文指導の専門家でもありません。また私は,主に「文系」の学部について経験を持っているだけなので,理系のAOはここでは扱いません。ここではただ,自分のつたない経験の中で我流で学んできたことをまとめるだけなので,ご利用は自己責任で

 

いわゆるAO入試なるもの,この20年くらいでいろんな大学・学部が採用しています。また,ここ数年の大学入試改革でも「主体性・思考力・表現力・(単なる知識の詰込みではない)生きた知識や技能」といったものが求められるとされていることから,AO入試がこのような能力を生かした入試形態として注目されているのも事実です。

 

さりとて,大学受験というもの,そんなきれいごとだけで片付けられるものでもありません。AO入試について,子どもたちの中には(いや,保護者にも)こんな風に考えていることがあります。

・いわゆる受験勉強をしなくても,大学に合格できる

・早く受験生活が終わって安心できる(だからそのあとバイトしたり,免許取ったり,セイシュンできちゃうかも?)

 

そして,いったん子どもたちがAO受験に本腰を入れてしまうと,明らかに普段のお勉強から逃げていく(しかも,「自分の受験の準備」という大義名分まである)ので,高校の先生方も,あんまりAO入試という形式を好ましく思っていなかったりするんじゃないでしょうか。大学受験における「裏技」な感じがするというか。

 

ただ,これまでぼちぼちとAO対策にかかわってきて,私自身,すこーしだけ考えが前向きな方向に変わってきました。どう変わったのかについては,後程。

 

では,ここからが本題です。

AO入試とはどういう入試なのか,についてはいろんなところでいろんなことが言われているのでここでは割愛します。

 

じゃあどんな子がAO入試を受けるのか,大まかに分けて,次の3タイプになろうかと思います。

パターン①

:特徴的な活動実績や,特定の分野に対して強い関心をもって継続的に取り組みを続けてきた子

 

パターン②

:勉強はいまいち,だから一般受験が不安,AOだったら受かるかも!?と思っちゃったり,またはそう思った保護者から勧められたり,何としても実績を挙げたい塾(※)から勧められたりした子

※某W塾なんかがよくやってくれます。簡単に慶應SFCとかを勧めてくれちゃうのですが,あの2000字近く要求される「評価書」を書くのはこっちなんだよ!

 

パターン③

:高校生活は部活一本,という運動部の子。監督や顧問のコネで特定の大学進学の道があり,でも一応試験は受けてもらわなければいけないので,AOの形で受験することになっている

 

面倒を見る側としてみればパターン①だといいのですが,私のいる環境では,ほとんどが②か③のパターン。最近はAO指導専門の塾も増え,そっちが面倒見てくれればいいのですが,実際の過去の経験として,「モノにならない」と思われた子に対して指導の手を抜くこともあったり(※)で,そんな場合我々のところに来ることになります。

※明らかに文章の量や質が足りないのに「塾の先生からこれでいいと言われた」ということがありました。たぶん力のあるほかの子に,指導員のリソースを回したのでしょう。大学生が指導するタイプのAO専門の塾のことでした。

 

で,パターン③の子については,まああんまり手を加えなくても「それっぽい」文章に仕立ててあげればいいのでそんなに手間はかからないのですが,パターン②の子は考えの根っこのところにどこか「ラクしたい」という気持ちがあるので,厄介なことになったりします。

そこで,②のタイプを(せめて意識の面だけでも)①のレベルに持っていくこと,①の子に関してはさらに自分の興味関心について深掘りさせること,ここが準備段階での肝になります。

 

私の場合,そのためには何度でも,じっくり時間をかけて話し合いをします。どんなことを話すのか。ざっと挙げてみると・・・

 

0.志望理由(何をしたいのか,ぎりぎりまで具体的に)

1.そう思うようになったきっかけ

2.(主に高校生活における)実績,資格

3.あなたを入学させることによって,大学側が得るメリット(そもそも「学力」の高い生徒は一般入試でほっておいても入ってくる,じゃあなぜAOでその受験生を取らなければならないのか)

4.なぜその大学でなければならないのか(ほかの大学でも学べることであれば,わざわざそこの大学にこだわる必要もない=大学側も,その受験生にこだわる必要はない。ひょっとして,大学のブランドで選んだりしてないですか?)

5.大学での学修計画(「そもそも,うちの大学の特徴ってわかってますよね?」)

6.大学で学んだことをどう社会で生かしていくのか(単に自分の強い思いを訴えて,「私の夢なんです」と力んだところで,大学にしてみればただの独りよがりにしか聞こえないかも)

 

まだまだあるかもしれませんが,ともかく細かいところまでとことん聞き出します。甘い考えで受験するような子だと,特に項目3~6で詰まります。下手すると逆ギレめいてきたりもする(「もーいいです。ほかの先生に頼みます。ふーんだ」)のですが,ここは日和ってはいけないところだと思っています。というのも,この先やってくるであろう面接の際,この手のことを聞かれて答えに窮してしまうと,それまでの準備が水の泡になるからです。

 

もちろん,これらの質問に対してイッパツですらすら答えられるような人はいません(いたとしたら,むしろアレな感じの人かも,と思ってしまいます)。だから,じっくり時間をかけて,何度でも問いを繰り返して,子ども自身に自分の考えや将来像を明確に意識させるのです。1~2時間で終わるようなものではありません。

 

ちなみに,この「準備」をいつから始めるのか。私は,高2の3学期から高3の1学期にかけて,早ければ早いほうがいいと思っています。もちろん,時間の経過とともに子どもたちの考えが変わることもあろうかと思いますが,子ども自身が考えに考え抜いて別の方向に進むのであれば,前向きな方針変更といえましょう。間違っても保護者や塾の都合で受験校が変わるようなことがあってはいけない,と思っています。また,この手の問い自体は根本的なものであるため,この後実際に文章を書く段階になっても,同じような問いかけを繰り返すことがあるでしょう。その際も,子どもたち自身の「芯」がしっかりしていれば,壁を乗り越える策が出てくるはずです。反対に,この作業をおろそかにすれば,後になって子ども自身が苦しむことになります。だから,嫌われようがめんどくさがられようが,この面談を徹底しなければならないのです。

 

ちょっとマジメに語ってしまいましたが,しかしそんなレベルですらない子だってたくさんいます。例えばパターン③の子の場合,「あまり手間はかからない」としましたが,試しに面接練習をしてみると,こっちが卒倒しそうな「しぼーりゆー」に出会うこともたびたびあります。

一例を挙げましょう(なお,この話題は過去に面倒を見た複数の子をモデルにして作ったフィクションです)。

高校時代,野球部に所属し,ほぼほぼ部活に命をささげた子。経済系の単科大学への進学を考えて,受験することにしました。で,面接練習を頼まれたわけですが,

私「志望理由は?」

子「自分は3年間野球部で頑張ってきたのですが,御校の野球部は実績があり,私も大学生活で野球を続けたいと思っています。卒業後は,企業に就職したいと思っているので,ビジネスも勉強したほうがいいと思って,御校を受験しました!」

・・・あのねえ,大学は野球することがメインではないんだよ。それに「経済学部」への志望理由は,「野球のついで」で,それも「就職するため」なの?

 

また,これとは別に,「将来,家業を継ぐために経営系の学部を受験する」という場合もあったりします。この場合,志望理由のきっかけ自体は自分自身の経験でもなんでもありませんが,ただ「家業や家庭環境」に関係した志望理由は,十分アリだと思います。というのも,それ自体が「ほかの子にはない経験」であるからです。

 

あと,項目2の「実績・資格」ですが,PRポイントとしてアピールするのであれば,客観的に見て平均的な高校生よりも抜きんでているようなものでなければなりません。特に,一部の大学・学部の推薦入試は,「スーパー高校生」とでも呼べるレベルでなければ受からないものがあります。具体的には,早稲田の教育(社学も)の自己推薦入試です。ときどき私の周りでも受けたいという子がいたりするのですが,まったくもってお勧めしません。というのも,早稲田・教育の自己推薦,どれくらいのレベルの実績が要求されるのかというと,「全国ロードショー映画『鉄道員』に出演したことで受賞した日本アカデミー賞新人賞」とかです。広末涼子という人がこれで合格したんですが(しかも中退した)。たいていは,インターハイで全国〇位とか,数学オリンピックで結果を出したとか,そういうレベルでしょう。

一方で,「出願に必要な要件」として特定の資格が設けられていることもままあります。IELTSオーバーオール6.0とか,英検準1級とか,語学系の資格がほとんどです。

これとは別に,別に誰が要求しているわけでもないけれど,私としては何とか持っていてほしい資格,それは「漢検」です。文章を書くにあたって,漢字は身につけておきたい。実際に手書きでないとしても,漢字の素養のあるなしでは思考の深まり方に大きく違いが出ます。最低でも3級,できれば2級を持っていてほしいと思います(※)。

※例えば,こんなことがありました。出願前の最終段階では,「文章の文字数を削る」という作業に四苦八苦することがままあります。「あと40字削りたい」で悩んでいる生徒の文章を試しに見せてもらったとき,私はこれを「換骨奪胎」という表現で置き換え可能だと思って,そう伝えたところ,たいそう驚かれてしまいました。しかもその子,英検準1級も持っていれば,学校の成績もトップクラスの優秀な子なのです。

 

さて,ここまでいろいろ述べてきましたが,基本的にAO入試の指導は,窓口を一つにさせるようにしています。塾に頼るのならそれでもいい,こっちに依頼するのであれば,こっち一本にしてくれ,ということです。というのも,今後指導が進んでいく中で,ある人はAといい,別の人は真逆のBと主張することもよくあるからです。こうなると,指導の受け手(子ども自身)がさらに迷って混乱,メンタルが崩壊なんてことも心配されるのですね。だから,他の人の指導を受けている子が私のところに来て意見を仰いだとしても,「あくまで私の考えは参考意見だ,あとはあなたを指導している先生と相談なさい」と言っています。

 

そろそろおしまいにしましょう。

最後に,冒頭でふれたように,私が「裏技」であるAO入試の指導になぜ付き合うのか,私なりの考えです。世間でも言われるように,AOで合格したような大学生は,キツイ経験をしていない分,弱い,就職活動でつぶれる,とか,そもそも「お勉強」をしていないがゆえに一般入試で入った学生より劣る,とか,否定的な側面があることは私もよくわかっているつもりです。そしてAO入試に付き合うにしても,もちろん「合格」は手段であって目的ではないため,「受からせるために指導する」などという下世話なレベルでは指導し(たくあり)ません。大学というところは自分自身の「学び」を広げ,深めていくところであり,だから合格後の指導こそが大切だと思っています(ただ,たいていの生徒は「長い春休み」を満喫して埋没するのですが)。

・・・と,このように書くと,「やっぱり本心ではAOなんてやらせたくないんじゃないか」と思われるかもしれません。確かにそんな気持ちもあります。しかし,こっちの指導に本気で付き合ってくれた子の中には,少しは私の思いをくみ取ってくれるのもあったりするんですね。ある卒業生,大学2年くらいの時に顔を合わせることがあって,「最近どうだ」みたいな会話をしていたら,「入学前に自分のやりたいことをしっかり考えることができたから,大学生活も充実している」なんてことを言いだして,おじさん,泣きそうになってしまいました。AO受験の時は,何度も志望理由書にダメ出しして,さんざん泣かせた子なのですが(おれ,悪い奴だな),こっちも必死になって付き合った甲斐があったというものです。そしてその子,幼児教育関係の勉強をしているのですが,こっちはそんな世界はもともとシロート,でも相手に付き合っていく中でこっちにとっても勉強になったのですね。

 

だからやめられない,というところなのです。

 

こんな話が,どなたかのお役に立てれば幸いです。

お付き合いいただき,ありがとうございました。

 

次回は,書かせる段階に進もうと思います。

では。